東京高等裁判所 昭和43年(ネ)243号 判決 1969年1月30日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。同部分について被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上および法律上の陳述ならびに証拠の関係は次のとおり附加訂正するほかは、原判決の事実摘示中の、予備的請求に関する当事者双方の主張の記載および証拠の記載のとおりであるから、これを引用する。
一、被控訴代理人の陳述
1 原判決の事実摘示中の第二、原告の主張の第六項中「原告は吉田の偽造行為により本件の手形金三二〇〇〇〇円の支払を拒絶されて得ることができず、よつて右金額に相当する損害を被つたから」とある部分を「被控訴人は、本件手形の満期日の昭和四〇年一二月二五日以前に訴外浜島彦四郎から右手形の割引を依頼され、同人に対し割引金として金三〇万円を支払い、よつて、右金額に相当する損害を被つたから」と訂正する。
2 被控訴人が控訴人の後記主張の頃訴外浜島彦四郎から金一三万円の交付を受けたことは、これを認める。
しかし、右金員は、本件手形金の支払として受領したものではなく、被控訴人所持の左記の二通の約束手形について、振出人の訴外川名栄治がその支払をすることができない場合において、裏書人たる右浜島の手形金債務の弁済とする約旨の下に受領したものである。そして、被控訴人は川名栄治に対し、右手形金の勝訴判決に基づき強制執行をしたが、同人の所在が不明のため執行中止となり、同人より手形金の支払をうけることが不可能であることが明かとなつたので、右金一三万円は約旨により右手形金の弁済に充当された。
<省略>
<省略>
二、控訴代理人の陳述
被控訴人は昭和四一年四月頃本件手形の裏書人の訴外浜島彦四郎から右手形金の支払として金一三万円の支払をうけた。したがつて、被控訴人主張の損害は、この限度において填補されたわけである。右金一三万円が被控訴人主張の別の手形金に充当された事実は否認する。被控訴人は、浜島から右金一三万円を受領した後の昭和四一年八月八日に、同人に対し被控訴人主張の本件外の二通の手形金請求の訴を提起し、同訴訟において右二通の手形金の全額を訴求し、結局その全額について勝訴の確定判決を得ている。前記の金一三万円が右の二通の手形金の弁済に充当されたものでないことは、これによつても明かである。
三、証拠(省略)
理由
当裁判所も、被控訴人の本件の予備的請求は、全部正当であると認める。その理由は、次に付加するほかは、原判決理由中の予備的請求に関する部分(原判決理由第一・二項および第四項以下)の記載するとおりであるから、これを引用する。
一、1控訴人の「吉田康夫の本件手形偽造につき、不法行為が成立するのは、同人の直接の相手方に対してだけであつて、その直接の相手方でない被控訴人に対しては、不法行為は成立しない」との主張(原判決事実摘示中の、第三被告の主張の三項(二)の(2))について。
被控訴人の手形取得が手形偽造者たる訴外吉田康夫から直接のものでないこと控訴人主張のとおりであるけれども、被控訴人は本件手形が真正に振出されたものと信じて、浜島彦四郎に対し、その割引金として金三〇万円を交付したのである(原判決理由第四項に認定されたとおり)から、吉田康夫の本件手形の偽造行為と被控訴人の被つた同額の損害との間に相当因果関係の存在を否定することができない。したがつて、控訴人の右主張は理由がない。
2 控訴人の「被控訴人は本件手形の裏書人の浜島彦四郎に対して遡求権を有するから、被控訴人が同人に対しその割引金として金三〇万円を支払つたとしても、これによつて、ただちに同額の損害を被つたとは云いえない」との主張(原判決事実摘示中の第三、被告の主張の三項(二)(2)(a))について。
被控訴人が本件手形について裏書人の浜島に対し遡求権を有していても、それだけで被控訴人にその主張の損害がないことにはならないから、控訴人の右主張も採用しえない。
二、被控訴人が、昭和四一年四月頃訴外浜島彦四郎から、金一三万円の交付をうけた事実は、当事者間に争がない。
しかし、原本の存在ならびに成立について当事者間に争のない乙第八・九号証および当審証人浜島彦四郎の証言によると、被控訴人がその主張の本件外の前記二通の約束手形を、その振出日の頃取得し、これを所持している事実が認められるから、昭和四一年四月当時被控訴人は浜島彦四郎に対し右二通の手形についても、遡求権を有していたと認められるところ、控訴人は右金一三万円は本件の約束手形について支払われたと主張するが、右金員がかかる弁済の合意もしくは指定の下に授受された事実を認むべき証拠なく、かえつて、原本の存在ならびに成立について争のない乙第五号証、当審証人浜島彦四郎の証言の一部(後記採用しない部分をのぞく)および当審における被控訴本人尋問の結果によると、右金一三万円は被控訴人の主張するように、本件外の前記二通の手形につき振出人の川名栄治による支払が不能な場合において、その合計一五万円の手形金の内入に充当するという合意の下に授受されたこと、川名栄治はまだその支払をしていないこと、が認められる。当審証人浜島彦四郎の証言中右認定に反する部分は採用しない。したがつて、控訴人のこの点に関する主張も、また採用しえない。
よつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条九五条を適用して、主文のとおり判決する。